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情報の海の漂流者

web上をさまよいつつ気になったことをつぶやいています。

「カレーは腐らない」の真実

和歌山砒素カレー事件の判決が出て林真須美さんに死刑判決が出た。
その事についてあちこちで話題になっている。
関連の記事を読んでいくうちに気になるエントリーを見つけた。
http://anond.hatelabo.jp/20090421194404
和歌山砒素カレー事件について書かれた本「四人はなぜ死んだのか」と、著者のその後についての追跡した記で、ちょっとゴシップめいた内容となっている。

その中で伝言ゲーム的な情報の混乱があったので指摘しておく。

毒カレー事件で林真須美に死刑判決が出たけど、そういえばあの時女子中学生が夏休みの宿題で「カレーは腐らないから食中毒じゃないはず。毒物混入では」と推理して世の大注目を浴びたことがあった。
(太字は僕が付けた)

要約としてはこれで構わないのだが、読んだ人の中に

  • カレーは時間がたてば腐る
  • ウェルシュ菌食中毒はカレーでも起こる

という内容のブックマークコメントを付けている人が結構いた。
(http://b.hatena.ne.jp/entry/http://anond.hatelabo.jp/20090421194404)
この辺について誤解がありそうなのでちょっと書いておく。

原典ではどうかかれているのか

この点について三好万季さんは日経新聞を引用した上で

  1. 吐き気や腹痛
  2. 命に別状は無いが激しい嘔吐
  3. 手が痺れたり不整脈
  4. 患者の発症が早い
  5. 食べてる最中から気分が悪くなる

と言う症状に注目して

はたしてカレーで食中毒が起きるのだろうか。また食中毒で、それも短時間で、手が痺れたり、不整脈が出たりすることがあるのだろうか?
p10

と疑問に思ったのだ。

カレーには多くのスパイスが入っていて、まるで漢方薬のアラカルトだ。しかもカレーのスパイスの中には、殺菌、滅菌、防腐、抗酸化作用をもつものが多いはず。

と感じた彼女はハウス食品のホームページ*1にアクセスし、カレーに使用されているスパイスの種類をメモし一つ一つ確認していった。
その結果、にんにくに殺菌効果があること。オールスパイスに殺菌、抗菌、参加防止作用があることに気がついたのだ。
ちなみに彼女が調べたスパイス情報のページは現在でも残っているので確認してみてもいいかもしれない
http://www2q.biglobe.ne.jp/~curry/spicebook.html

スパイスには細菌の繁殖を抑える効果があるため、カレーは腐りにくい

次に彼女は食中毒について調べた

事件当日、患者の症状の一部が食中毒と共通する事から保健所は黄色ぶどう球菌食中毒を疑っていた。
それにたいして彼女は

  1. 問題のカレーは当日調理したものであり、スケジュール的に細菌が繁殖する余地がある時間帯は一時間程度しかない。
  2. 黄色ぶどう球菌が中毒を起こす程繁殖するには二時間以上かかる
  3. 配膳の直前に再加熱もされているため菌はその段階で死滅している可能性が高い点(毒素自体は残る)
  4. 黄色ぶどう球菌中毒には潜伏期間があり「食べてる最中から気分が悪くなる」ような急性な症状が出ない

等を指摘している

  • カレーを一時間位放置しても黄色ぶどう球菌食中毒を起こすとは考えられない
  • そもそも食中毒なら症状が出るのはもっと遅い

つまり

ということで、問題の
「カレーは腐らないから食中毒じゃないはず」
というのは


「カレーは一時間程度じゃ腐らないから(黄色ぶどう球菌)食中毒じゃないはず」

というのが正しいのであって、作ってから何日も立ったカレーが腐らないなんて実は書いてなかったりする。
その辺が誤解されているようなので突っ込んでみた。

ちなみにこのカレーは朝から充分加熱してあり、配膳前に再加熱もしたそうだからウェルシュ菌食中毒の可能性も低いはず。
それにウェルシュ菌も感染してから症状が出るまで何時間もかかるので、急性中毒の有無に注目した彼女の論理で否定できるはず。

その後の展開
  • 新聞に出ている症例をキーワードにして無料のデータベースで検索すると、砒素中毒が一位で出てくるのに、当時専門家は誰も砒素中毒の診断を下せなかった
  • 海外の専門家から砒素中毒の可能性を示唆する電子メールが届いていたのに、職員が確認したのは随分後の話だった点

などに言及して、これは一種の人災じゃないかという内容に踏み込んでいる。


この本の内容は基本的に「インターネットや市販の専門書で検索すれば素人でも分かる事なのになにやってんの?」という事を指摘している。
今風に言えば「ぐぐれば一発で出てくるよ」と言う話だ。
ネットの普及により、知識を持つものと情報検索手段を持つものの地位が逆転し始めた事を象徴している本だと思う。
やっていることはそこらのブロガーと一緒なんだけど、情報を組み合わせて一つの仮説を導く力と、それを読ませる文章力が飛び抜けている。
その辺が凄い。

*1:現在ではURLが変更されているが、インターネットアーカイブのキャッシュをみれば当時の情報が見れる